アマンダ・リプリー「生き残る判断 生き残れない行動」
サバイバルものが好きなので読んだ。
サバイバルのハウツーは本を読んでも役立たないけれど、本書は著者がタイム誌のシニアライターということでちょっと期待して読んでみた。
期待以上。
類書とは全く異なる圧倒的に得るところの多い本だった。
9・11やニューオリンズの洪水、大火災、銃の乱射、群衆の将棋倒し・・・、新聞等でも著名な事故・事件を丹念に調べ上げ、生存者が危機的瞬間にどう対応して生き残ったのかをクリアにしてゆく。この辺りはジャーナリストとしての仕事をきちんとこなして文章にしてくれている。
ありがたい。
さらにこの本では、サバイバーに向かい合っていた英雄的な行為をした人の側にもインタビューをして、人を助けるということがどういうことなのか、さらに発展して、緊急時の行動が事後的に法的にどう評価されているかということまで述べられている。一段深く掘り下げて事実が提示されているわけだ。
すばらしい。
しかし、この本が類書と全く違うのは、そういうファクトの積み重ねから、マクロ的な視点を導きだしていることだ。
ミクロ的にはサバイバルにふさわしい行動というものはあるようだし(そういう行動が本書では多数紹介されているわけだ)、そもそも血液中に「ニューロペプチドY」という成分を多く作り出せる人は極度のストレスに打勝ってサバイバーになりやすいそうだ。
ただ、危機的状態に能動的に対応することが常にサバイバルとして正しいとは限らない。危機的状態は人知を超えて個性的で、意外な行動が結果的に生存につながることもある。
生き残る人は多様なのだ。
そう、我々の多様性は人類が生き延びてゆくのに不可欠なのだと、本書はリアルに具体的に納得させてくれる。
また、サバイバーにしばしば見られる助け合う行動やいわゆるパニック行動は、人間が動物として「群れ」を作ってサバイバルしようとするからではないかと指摘する。魚やほ乳類も、群れを作って団子のように行動することで犠牲を最小限にとどめるけれど、あれを人間もしているのだと。
危機で生き残るためのミクロな技を知ることよりも、他人に対する共感や愛情という心持ちの現実性を知ることに本書の意義はあるのだと、そう思った。
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>多様性は非効率な面があるわけで、そういう非効率を認識して受容する精神や社会というのも私にとってはもの凄く重要なのだ
無駄を省くことが必ずしもよいことばかりではない、というのは既に知られているにも関わらず、その意義は忘れられているようにも思いますね。
逆に本当に効率化すべきものごとを非効率なままにしている、そんな社会があちこちにあるのかもしれませんね。
投稿: ムムリク | 2010.06.01 11:09
事実を集めて分析する類いの本は、その手法が学術的でしっかりしていないとダメだし、著者が深く考えていないとこれまたダメだし、いずれにしても1冊の本を上梓するのには相当時間がかかるのだと思います。
(イマココは未知ですが)最近、拙速な本があまりに多くて、読んでしまってがっかりするのは悲しいです。
なので、たまさかいい本に出会うと過剰に喜んで、妙な部分で心動かされたりしています。ああ、やるべきことをきちんとやるって本当に素晴らしいと・・・。
でも、多様性についてはこの本の著者が重視しているのは確かで、社会科学の分野でこんなに説得的に論証してくれているのは、私にとってとても有用でした。
また、この本には書いていませんが、多様性は非効率な面があるわけで、そういう非効率を認識して受容する精神や社会というのも私にとってはもの凄く重要なのだと考えたりもしました。
投稿: あのじ | 2010.06.01 05:56
I received my first home loans when I was very young and that aided my relatives a lot. But, I require the short term loan over again.
投稿: GoffSheila | 2010.05.30 15:23
「イマココ」でがっかりしたのですが(同じ著者というわけではないです)、こちらはなんだか面白そうですね。特定のサバイバーが常に生き残るわけではない、ということが重要なところかもしれませんね。
生物の多様性も重要であり、環境の多様性もまた重要なのだと思っている、わたしです。
投稿: ムムリク | 2010.05.30 10:34