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ウンベルト・エーコ「永遠のファシズム」

エーコは、日本では「薔薇の名前」の作者として著名。
イタリアの小説家、記号論の専門家。
本書は、講演録や書簡などをまとめたもの。うち、「永遠のファシズム」はエーコが少年の時に経験したムッソリーニ・ファシズムについて、その体験に基づく皮膚感覚的記述からはじまり、ファシズムのファシズムたるとは何なのか、何を人類は避けなければならないのか、14の項目として掲げる。

ファシズムは言葉としてありふれている。
しかし、(ナチズムと違って)ファシズムは定義ができないといわれている。
つまり、たとえばプライバシという概念が定義できないのと同様に、その内実の不確定性が定義を不可能にしている。
・・・と簡単にいえばそういうことなのだろうが、そもそもファシズムの内実を正確に把握しようという精神が欠けていることに私はずっと失望していた。
プライバシの方は、こちらは、個人の内心というインタンジブルな部分でありしかも外部からそれをうかがい知れないことこそがプライバシたるのであるから、プライバシというメタ概念機能概念が抽象的になるのは理解できる。
しかし、ファシズムはプライバシとは違う。
思想や内心も含むけれど、問題とされるのは社会に表象される行為であり、しかも、人類が最も忌避すべき行動様式・政治体制の一つであると一般的には考えられているのだから、ファシズムは定義されないから理解されない・理解されないからそれを忌避できない、という因果の流れを断固として阻止しなければならない、はずなのだ。
・・・ということでエーコーはこの短い文章を書いているのだと、私は思う。
長い論文で、ファシズムを著そうとしている試みは多くある。しかし、真にファシズムを否定したいとするならば、人の心に強く突き刺さる表現形式が必要なのだ。的確さ、適度な短さ。

エーコは14の項目を典型的ファシズムの特徴としてあげて、これらを備えた対象に「原ファシズム」もしくは「永遠のファシズム」という呼称を与えている。

1.伝統崇拝
2.モダニズムの拒絶
3.行動のための行動を崇拝し、知的世界へ猜疑心をいだく
4.批判精神の拒絶
5.差異への恐怖と余所者排除
6.あたらしい多数派への迎合
7.外国人嫌いにつらなる陰謀の妄想
8.客観的な評価能力の欠如
9.平和の拒絶
10.大衆エリート主義
11.死によって実現される英雄の強要
12.性習慣への偏狭性
13.量として認識される「民衆」
14.貧弱な語彙と平易な構文による、創造的で批判的な思想の制限

上記14項目は、判りにくい表現もあるが、各々具体的な説明をされている。
例えば13.においては、

(前略)人間存在をどのように量としてとらえたところで、それが共通意志をもつことなどありえませんから、指導者は彼らの通訳をよそおうだけです。
委託権を失った市民は行動に出ることもなく、<全体を著す一部>として駆り出され、民衆の役割を演じるだけです。
こうして民衆は演劇的機能にすぎないこものになるわけです。
いまでは質的民衆主義の格好の例を、わざわざヴェネツィア広場やニュルンベルグ競技場に求める必要はありません。
私たちの未来には、<テレビやインターネットによる質的民衆主義>への道が開けているのですから。
選ばれた市民集団の感情的反応が「民衆の声」として表明され受け入れられるという事態が起こりうるのです。
質的民衆主義を理由に、原ファシズムは<「腐りきった」議会政治に反旗をひるがえすにちがいありません>。
(略)議会がもはや「民衆の声」を代弁していなことを理由に、政治家がその合法性に疑問を投げかけるときは、かならずそこに原ファシズムのにおいがするものです。

と述べられている(改行は引用者)。

初めて記号論理学の講義を受けたとき、がらんとした教室で私はまさに幸せな気持ちで黒板を眺めていた。
あれも春の季節だった。

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コメント

1920年以降の日本を文字化したかのような。

投稿: 叡 | 2015.04.19 10:49

2020年以降の日本の文字化でなければいいのですが。

投稿: akiko | 2015.04.20 05:30

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