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キャス・サンスティーン「シンプルな政府」NTT出版

著者はハーバード・ローの先生で、オバマ政権下においては行政管理予算局情報・規制問題室(OIRA オアイラ)室長。
本書では、実際に政権内で働いたその体験をるる述べている。
演算処理能力の高い人なのは良くわかるし、行動経済学の手法に基づく規制手段に重きを置いた問題解決は鮮やか。

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行動経済学の本で良く出てくる「ナッジ(nudge)」という言葉が、この本でも良く出てくる。
肘でつつく、という意味のこの言葉は、法律の名宛人たる市民が自身の選択権を保持しつつも総体として特定の政策目的を達成する結論に至るような行動やシステム、をここでは指している。
効率的な徴税のためには、たとえば事後的納税よりも還付請求方式にしたほうがよさそうだというのは理解できるわけで、ここでは手段におけるデフォルトの設定の仕方に発想の転換が必要になる。
(ただ、ナッジという考え方については、最初のほうの68ページおよび9章全部で扱っていて、要はパターナリズムと重なる部分があってナイーブな概念であることを著者も認めている・・・ナッジという道具概念の脆弱性は致命的だと私には思える。)
以前からこういう政策目的の実現のための手段の重要性は認識されているけれど、個々の人を合理的近代人と措定していたところが間違いで、人が日常習慣や直観に阻害されていかに合理的ではない判断をするものかは、本書を読むとたしかに納得できる。
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すでにあるシステムを変えたいと思ってしかし変えること自体が容易でないと気づいたとき、本書は発想の転換を促してくれる。
レミング現象を止めるには役立つかもしれない。
そして。
・・・ああこれが無神論というものなのか、と感じた。
著者は憲法学者だから、法規制における目的の憲法適合性はもちろん言っている。まったく正しい。
でも、私の内心、ニーバーの祈りの言葉に感銘を受ける私の心がネガティヴに反応する。
私はもっと自由が欲しい、私の設定した自由の中の自由ではなく、なんの柵もなく天井もない恐怖に満ちた自由が欲しい。
死の恐怖を自由に味わう自由を私に。

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