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松原望「ベイズの誓い ベイズ統計学はAIの夢を見る」聖学院大学出版会

ベイズ統計学の最もわかりやすい本はないかと思っていたら、たまたま新刊本のコーナーで見つけた。

未知の著者だけど、統計数理研究所からスタンフォードでドクターとって東大という経歴。いちばん引っかかったのは、本書の発行所が聖学院大学出版会という点。
これは非常に面白い本だった。
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コストの面は考慮外とするなら、どの標準治療を受けるのか受けないのかは、受けることで享受しうるメリットと可能性としてのリスクとを比較考慮して判断することになる。
医師は医療過誤(による訴訟?)を恐れているし、こちらも一応そういうことは頭の片隅にありつつ、検査の数値を統計値に照らして最終判断は患者側が行うわけだが、これは非常に興味深い体験だった。
私の人生で確率がこれほど大きな意味を持ったことはなかったかもしれない。
自分の腫瘍のタイプがマトリックス的に類型化され、その類型ごとの無病生存率の曲線が描かれていて、たとえば、3年後の無病生存率が28%だとこれはやばいと治療を進めることになるのだろう。
ただ、そもそも「無病生存率」って何よ、ということもあるし、統計の数値の意味が理解できず、医師がふとこういう方法もあるはある、と言った内容が身体への侵襲のないお財布だけの問題だったのでその数値を加えて見たら、全く評価が変わって、まったくこの統計表はなんなのかと、思ったのだった。
(抽象的すぎる話ですみません)
まあとにかく、
あの時は、統計って確率って何なのか、初めて真剣に考えたということです。
標準治療の文献はそこそこ読んだし(ただし自分に関係あるとこだけ)、標準治療以外の選択肢もざっくりとは調べたけど、どうも説得的な情報はあまりなくて、たまたまちょうどその時公開されたカナダのアルバータ州のパブリックな報告書が私の場合には最も役立った文献だった。
バイアスのかかった統計ではなくマクロな視点からのコスト面でのアプローチというのが、私には非常に説得的だったわけですね。
とにかく、統計として示されている数字は信用できないことが多い、その数値から導かれる確率なんて本当に嘘くさいと思った次第。
.(治療の過程で、「これは副作用があったらすぐ電話してください、でもほとんど出ないから大丈夫」、と言われた薬が滅法副作用があって、たしかに調べたら副作用の出る確率が5%程度だったのだけど、その5%に自分がはまったわけで、あの時の医者の「いやー、これはめずらしい、僕、初めてですよ」と人の不幸を嬉しそうに笑顔で言われたのは、じつはいやな感じではなかった。
ただ、95%安全と言われても、自分が5%の側になって最悪死んでしまったら、たとえ十分有意な確率値であっても主観的には意味ないともおもた。)
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とはいえ、確率は重要ではありますよね。
雨の確率が10%なら傘はいらないけど、40%で素敵な服を着てくときはやっぱり折り畳みをバックに忍ばせることになります。
あと、本書ではAIとか自動運転とかコンピュータの話につながって、シンギュラリティの話になって、邦訳があまりに悲惨ということで形而上的な話になって、もう素晴らしい展開です。
さすが聖学院大学出版会。望外の面白い本を私にアクセスさせてくれました。
ただ、そもそもベイズ統計を知りたいと思ったのは、訴訟での立証行為をロジカルに検証したかったからなのですが、確率ってなによ、という点を少し考えてから、本筋に戻りたいと思いました。

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