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ミスター・ロボットの意味

ボヘミアンラプソディが及第点だったので、ラミ・マレック主演の「ミスター・ロボット」をシーズン2まで見たところ(アマゾンプライム)。

ストーリー自体は、チャック・パラニューク(Chuck Palaniuk)の「ファイトクラブ」そのまま(類似点の詳細はここなど)とそれが成功した後日譚。長い期間を様々なエピソードを折りませながら、描いている内容はもっと普遍性を持った部分までに至っている。
原案・製作のサム・イスマル(Sam Esmail)は、ファイトクラブ(1996年)のストーリはもちろん、パラニュークの実生活をもここに押し込み今日的にアレンジしている。
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世界を変える主人公エリオットは化学薬品を扱うのではなく、PCや携帯電話を操るハッカー。Fight Clubではなく、Fソサエティというハッカーグループを組織して、金融企業Eコープのビルディングではなくデータを消しドルの価値を崩壊させる。
ここまでがファイトクラブと同様の構造でストーリーが進むところ。父性の喪失、強迫観念、ドラッグ、不眠、人格の分離、世界秩序の破壊のための組織化。
このあと、既存通貨が崩壊して社会が混乱するけれど、資本主義はデジタルマネーに移行するだけという現実が現れてくる。
さてどうしようか、というのがシーズン3以降(未見)。
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これはラミ・マレック(Rami Malek)という異形ともいえるエジプト系キリスト教徒の俳優がいたから実現できたストーリーで、マレックはボヘミアンラプソディでフレディを演じるよりずっとナチュラルにフィクションを演じていた。
コンセプトさえマッチョに存在していれば、あとは適切な俳優がいれば面白いドラマができてしまうということなのかもしれない。少なくとも私はストーリーはそれほど気にならない。
気になるのは、なぜこのドラマは緊張感を保っていられるのかということだ。どこからこの力が伝わってくるのか。
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特に延々と続くエリオットの幻覚、にわかにはそれが現実ではないと気づかないシーンもあれば、すぐにこれは幻覚だと解るものもあるが、つまりそれらは単に彼の内心の、必ずしも現実と因果関係のない妄想であって、それをずーっと見ていられる、見ていたいと感じさせるのはどういうことなんだろう。
ここに何らかのリアルがあると感じているから、見ていたいと感じるのか??
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たとえば、マトリックスには影響を受けたとイスマルは言っているけれど、たしかにあの世界観だとバーチャルの方が観客にとってのリアルだからバーチャル部分を熱心に見てしまう(パウロのように世界を新たに見る)のは当然だろう。
それに、バーチャル世界は物理の法則や因果律が支配して人類で共有する構造になっていたから、観客も共感できるストーリーとして成立していた。
そういうマトリックスをすでに知っている観客であっても、ドラッグによる個人の妄想に付き合わされるのはまったく別なのだが、しかしエリオットの幻想には観客を引き込む力がある。エリオットは自分の居場所がわからず困惑しているけれど、幻想の見せ方には迷いがない。
この製作側の自信はどこから来るのか。
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と思っていたら、ファイトクラブのチャック・パラニュークの実生活、彼の祖父・父・本人のを一人の人物として現代に置き換えたらエリオットになるのだと気づいた。
もし、ある小説がとても気に入ったなら、なぜその小説が書かれたのか、作者の人となりや経験してきたことを知りたいと思うのは当然だ。
圧倒的に魅力的な世界の終わり、これまでなかったリアルな世界の終わりのパターンを目にしたとき、その作者パラニュークというリアルの人物の記憶と感覚、それは読者の共感の源となり、そういう人物であれば幻覚にさえも観客は喜んで付き合う気になる、ということだ。
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1962年生まれのパラニュークの実生活は、日本語ウィキからリンクされているいくつかのサイトによると、下記のようなものだ。
まず、祖父。
ウクライナ人の祖父ニック・パラニュークは息子フレッド(チャックの父)が3歳の時、妻を撃ち殺し自分も自殺した、フレッドはベットの下に隠れて助かった。
ニックはクレーンのアームで頭を殴打されてから変になったとも、いや前から暴力的だったという人もいて真実は解らない。いずれにしてもチャックは父方の祖父母を知らない。
チャックの両親は14歳の時に離婚するが、それまではワシントン州のバーバンクでトレーラーハウスに住んでいた。非常に貧しかった。
バーバンクはマンハッタン計画が進められていたハンフォートサイトの隣町で、母は核施設で事務職をしていて(2000年時点)、2009年に死亡。
父は大陸横断鉄道の支線で勤務していたが(ガーディアン紙によると、チャックは子供のころの思い出として、鉄道事故が起きると夜中に家族で現場に出かけて盗みをしたのを鮮明に記憶している。)、離婚後、雑誌の出会い広告で知り合った女性の元夫のストーカーに、女性とともに殺害された。
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ミスターロボットのストーリーになっている要素が、モザイク的にちりばめられている。
頭部の強打と常軌を逸した行動、明らかにならない因果関係、父親の喪失、貧困、川沿いの町、土地の汚染、魚の汚染、巨大組織に勤務する親、ファミリービジネス、他人の物語にもとづく死・・・。
そして、これらからファイトクラブが醸造されたのだという因果関係。
こういう現実を丁寧に取り込んで、そこで動いた感情をやり過ごさずに現代のストーリーに反映させればミスターロボットになる。
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ミスターロボットというタイトルは、人間の自律性とは何なのかという意味なのだろう。
人格の分裂、見えない他者との会話、自律的な決定をしているつもりでも他者や自己のDNAや既知に支配されている。
我々が自律的でないとするならば、対置する概念として自律する存在を措定することができるわけで、それを神という名で呼ぶかはさておき、ミスターロボットは神ともいうべきなにがしかを措定するための対概念と定義できるのかもしれない。
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イスマルは映像も音楽も素晴らしい。
映像は若干やりすぎ感があるけれど、今回はこれでいいのかもしれない。サウンドは本当にセンスがあるとしか言いようがない。このドラマで最も素晴らしいのはサウンドだと思う。映像へのサウンドの合わせ方はハッとさせるものがある。単に私の好みなのか?とにかく素晴らしい。
対して、彼が苦手なのは子供の描き方、それと宗教がやっぱり良くわからないんだよねという感じが伝わってくる。

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