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2024年1月

ヘッセ「シッダールタ」

たまたま買っていた「シッダールタ」を開いたら、読みやすかったので、
ゆっくりじっくりこれを読んだ。

てっきり仏陀の話かと思って読んでいったら、途中からおかしなことになってきて、そうではないのかと知った。
ヘッセの作ったお話として読むべきなのだった。

ヘッセはドイツ語の人でノーベル賞を取っている、というぐらいしか知識がなかった。
ノーベル賞はやっぱりすごいよな、と最近は改めて認識しているところがあって、本作もさすがノーベル賞作家と感じさせられた。

まずストーリーが巧み。
言語で、無限・無常・時間は存在しない、ということを表現するとこうなる、というのが具現化しているのであったよ。
イメージとしては、ブラックホールにらせんを描きながら取り込まれながらホワイトホールに放出されながら、という状況で「自分の背中が見える」みたいな??
これがリズムのあるたゆとう文章でできている。ただ、文章自体は日本語で読んでいるので、ヘッセではなく高橋健二の作品かな。
めっぽう厳しい内容を、さらりと易しく書いているので、それこそ川の流れに耳を傾けるように自然に流れ込んでくる。

私としては、本作に顕れる旧約聖書の認識に興味深さを感じたけど、
「愛」の概念をシッダールタが定義しようとしなかったのは、キリスト教世界に生まれついた作者の盲点なのだろうか。

本作は、ヘッセがナチスを知る前の作であり、その後、ヘッセの宗教的側面が変化したのかは知らない。
ただ、私が思うには本書はキリスト教的な考え方の一つの到達点のように感じる。

黒澤 生きる

年始休みのテレビで見た。
昨年のビル・ナイ主演リビングは見ようと思ってまだ見ていないけれど、じつは黒澤の本家本元も見ていなかったのでした。
もちろんざっくりした筋は知っていたのだけど、見てみたらほんとビックリ。
さすが黒澤42歳ごろの映画でした。ものすごーく巧み。
(このブログ、新装開店するつもりでしたが、結局前と同じですね)

主人公が癌だということになって、
今と違ってイコール死の宣告ということなのだろうけど、見ている方としては志村喬(主人公)の悲嘆には共感できなくて、
むしろ周囲の登場人物たちの"このオヤジ、ウザ"という感覚に同調してしまう。
主人公はなすべきことに気づいて猛進するかと思ったら、すぐに葬式の場面になって、弔問客の話を中心に時間が遡って主人公が命がけで生きていた姿が描かれる。
通夜の場で主人公の尊い命に心を打たれた同僚たちは、しかし、翌日、職場に戻れば"お役所仕事"に埋没するだけ。

すごくうまい。
見ている人を巻き込んで当事者意識を持たせる構造が秀逸。
「大衆とはあなたのことだ」。オルテガよりもずっと折伏される。
あと、役者の立ち振る舞いが力強く魅力的。
特に宮口精二は一瞬にらむだけなのに全然嘘がない。言葉では説明ができない演技による説得力。

 

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